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エレファントカシマシ 『昇れる太陽』
<初出「Groovin'」2009.04-05/ISSUE#115>

ロック・バンドとしての可能性、
定石とされるサウンド要素をさらに押し広げた意欲作。
達観し、受け入れてなお歌い、叫び続ける21年目のヴェテラン・バンド、
それがエレファントカシマシだ。


エレファントカシマシ-A


 今日もまた、<懐かしのJ-POP特集>をテレビでやっている。登場する歌手は、当時のヒット曲以外を歌うことはまずない。許されないのか、それ以外求められていないのか。
 その嬉々とした様相の顔ぶれはそういえば、ちょうどエレカシがアルバム『東京の空』を出した頃の人たちばかりだ。
 手元には間もなくリリースされる、そのエレカシの新作がある。当時のJ-POP(という言葉はまだなかった)シーンと、当時のバンドの状況が甦った。ミュージシャンにとって、どちらが幸福だったのかはわからないが、15余年が経った今でも音楽的な試行錯誤を繰り返しながら止むことなく前進し続けている彼らは、新陳代謝が活発なせいかとても瑞々しい。
 いつかエレカシも懐かしさに媚びを売るようになるのか。
 ニュー・アルバムを聴く。テレビを観ながらふと頭をよぎった安易な発想が、笑いながら逃げていった。
 彼らは今も転がっている。歌声は磐石だ。

 オリジナル18作目。意欲的な作品だ。これまでも<聴く者の人生に必要な歌>を数多く残してきたエレカシだが、多くの人に愛される珠玉の名曲を、しかも新しい息吹を感じさせるものを、ここ数年の彼らは模索し、形にしてきたように思う。
 それは"伝えたいことを伝えるため"に重きを置いたもので、本作もその流れを汲んだものといえるだろう。
 その旋律にはこれまでと一線を画す練りと工夫、それに伴うスケール感が感じられ、耳なじみはよく、かつ、より自由度を高めた印象がある。
 さらに今回はプロデューサー陣も多彩だ。前作からの付き合いとなる蔦谷好位置とYANAGIMANで7曲を、亀田誠治が3曲を、生駒龍之介が1曲を、といった具合に、1枚の作品に4人のプロデューサーを起用するという異例の試み。
 スタンダード性の高い楽曲を、時代性を踏まえた確固たるスタンダードにするために力を注ぐ、いずれも気鋭のヒット・メイカーばかりだ。
 6分超えの大作となった直近のシングル「絆」をはじめとするポピュラリティに溢れたシングル曲のみならず、グルーヴィーなロック・チューン「おかみさん」といった持ち味炸裂の曲まで、いずれも一聴すると聴きやすいが、打ち込みと生音、泥臭さと洗練、ポップ感とロック感が絶妙なバランスで共存、あるいは拮抗しているのがわかる。
 その上でアルバム全体をまとめるのは、ほぼ全曲にわたって登場する"光"、"光る"というキーワードだ。
 追憶の果てにある今、そこから続く明日。現実を悟ってなお求めるもの。それらがすべてこの言葉に集約されている。
 キャリアを重ねることによって、物事に対する視点とアウトプットの方法には変化があるものの、本作を聴く限り、エレカシというバンドと宮本という人間の本質そのものは不変だ。
 人が言うほど人間、簡単に「丸くなった」りはしないものである。
 そのことに安堵すると同時に、納得の上で何かに抗っているようにも思えるのはなぜだろう。ともあれ、分別ある大人の感覚と本来の無頼漢が交錯するエレカシの今のモードを堪能しつつ、不惑の男歌に無条件で涙しつつ、だがいつ気が変わるとも知れない、これからのエレカシの変遷ぶりに思いを馳せもする。

Text by 篠原美江

エレファントカシマシ-J『昇れる太陽』 [初回盤]DVD付き UMCK-9276 発売中
映画「相棒」シリーズ『鑑識・米沢守の事件簿』主題歌の「絆」ほか2曲の既発シングル曲を含む通算18枚目のオリジナル・アルバム。初回盤にはMusic Video 3tracksを収録したDVD付き。非売品のアナログ盤等が当たる、シングル&アルバム連動特典アリ。
[通常盤] UMCK-1306

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【2009/05/01 15:45】 | 過去ログ | page top↑
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